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名古屋地方裁判所 昭和61年(ワ)2218号 判決 1988年4月20日

原告

枡谷清春

被告

児玉芳子

主文

一  被告は原告に対し金一二万一〇九九円及びこれに対する昭和六〇年五月二一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二〇分し、その一九を原告、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し金二四一万六七六〇円及びこれに対する昭和六〇年五月二一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は左記交通事故を惹起した。

(一) 日時 昭和六〇年五月二〇日午後一時一〇分ころ

(二) 場所 名古屋市中川区大当郎二丁目一六〇三

(三) 態様 原告が自転車に乗り右(二)の場所付近の歩道を北進し、信号が青になつたので横断歩道に出たところ、被告運転の軽四輪貨物自動車(以下「被告車」という)が東進して来て、横断中の原告に接触した。

(四) 傷害 中心性頸髄損傷、頭部挫傷

2  被告は被告車の運行供用者であり、被告には右前方不注視の過失があるから自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という)三条、民法七〇九条による損害賠償責任がある。

3  原告は本件事故により次のとおりの損害をこうむつた。

(一) 入院雑費 金二万八〇〇〇円

入院期間二八日に一日当り金一〇〇〇円を乗じた。

(三) 通院交通費(みなと医療生活協同組合協立病院分)

金一〇万一七六〇円

(三) 休業損害 金一二〇万円

原告は本件事故当時、古物商を営んでおり、月収二四万円を得ていたが、本件事故のため、収入を得られなかつた。

したがつて原告は本件事故により五か月間就労できなかつたので合計一二〇万円になる。

(四) 入通院慰藉料 金七九万二〇〇〇円

(五) 合計 金二一二万一七六〇円

(六) 弁護士費用 金二九万五〇〇〇円

(七) 総計 金二四一万六七六〇円

4  よつて原告は被告に対し、右損害賠償金二四一万六七六〇円並びにこれに対する本件事故発生の翌日である昭和六〇年五月二一日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1のうち(三)、(四)の事実は否認し、(一)、(二)の事実は明らかに争わない。

2  同2の事実中、被告が被告車の運行供用者であることは認め、その余は否認する。

3  同3の事実は不知ないし争う(但し原告が昭和六〇年六月四日から同月一五日まで入院したことは認める)。原告の入院治療中昭和六〇年九月一〇日から同月二五日までの分は原告の弟の暴れ込みによつて生じた左側胸部挫傷、頭部挫傷、全身打撲、肋骨骨折によるものであつて本件事故とは相当因果関係がなく、その後の通院も本件事故と相当因果関係がない。

また、原告は本件事故前にもひんぱんに通院しており、原告は本件事故前満足な仕事をしていないから本件事故による減収はない。

三  抗弁

1  本件事故当時は雨が降つていた。被告は被告車を運転して本件事故発生交差点に至り、信号に従つて右折しようとして曲がりかかつたところ、傘をさして自転車に乗り南方向から北方向に向かつて進行しようとする原告を発見したので、原告が通過するのを待つため停車した。

原告は、当時酒気を帯びたうえ傘をさして片手でハンドルを握つていたため、ハンドルやブレーキの操作ができずふらふらしながら、停車していた被告運転の被告車に自ら接触したものであつて、被告には過失がない。

仮に被告に過失があるとしても原告の過失割合は九割を下らないから、過失相殺されるべきである。

2  原告主張の損害に対し、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という)から金一一七万九〇〇〇円が原告に支払われている。

四  抗弁に対する答弁

1  抗弁1の事実は否認する。

2  抗弁2の事実は認める。

第三証拠

本件記録の調書中の各書証目録、各証人等目録記載のとおりであるから、これらを引用する。

理由

一  本件事故の発生

1  請求原因1(一)(二)(本件事故発生の日時、場所)については被告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

2  成立に争いのない甲第一、第一三、第一四号証及び原告、被告本人尋問の結果を総合すると次の事実が認められる。

前記日時ころ、被告が軽四輪貨物自動車(被告車)を運転して南方向から前記場所の本件交差点に至り、信号に従つて右折進行したところ、傘をさして自転車に乗り南方向から北方向に向かつて横断歩道西端付近を進行していた原告の自転車左端に被告車の右前部が衝突し、原告の自転車は転倒し、原告は受傷した。

本件事故当時は雨が降り、風が吹いていた。

本件事故現場付近道路は、市街地にあり、交通ひんぱんで見とおしがよく、路面は舗装され、平坦で湿潤であり、制限速度時速四〇キロメートル、駐車禁止の交通規制がなされていた。

3  前記認定事実、原告本人尋問の結果及び前掲甲第一三、第一四号証によれば、原告は本件事故より一時間四〇分位前にビール中瓶一本位を飲んでいたが、本件事故当時ビールの影響で酩酊してはいなかつたこと、本件事故は、原告が右手に傘を持つて自転車のハンドルの上に置き、自転車に乗り本件交差点東側の横断歩道西端付近を北に向かつて走行している時に発生したこと、原告は本件事故前に左方を注視していないことが認められる。

二  以上認定の事実によれば、被告には右前方不注視の過失があると認められ、被告が被告車の運行供用者であることは当事者間に争いがないから、被告は民法七〇九条、自賠法三条により損害賠償責任を負うことになる。

しかし原告にも、前記のとおり、本件事故前に左方を注視しないで傘を持つて自転車に乗り道路を横断した過失があり、その過失割合は原告一五パーセント、被告八五パーセントと認めるのが相当である。

三  (原告の傷害及び治療経過)

1  原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第三ないし第六、第八号証、第九号証の一ないし五、第一〇号証の一ないし三、第一一号証の一ないし八、原本の存在及び成立に争いのない甲第一五号証の一、二、第一九号証、成立に争いのない乙第二号証によれば次の事実が認められる。

原告は、本件事故により、右側頭部、頸部、両手、骨盤部打撲症、中心性頸髄損傷の傷害を受け、そのため、昭和六〇年五月二〇日から同月二三日までは医療法人名南会中川診療所で通院治療を受け、同年五月二四日から同年六月三日までみなと医療生活協同組合協立病院(以下「協立病院」という)で通院治療を受け、同年六月四日から同年六月一五日まで同病院で入院(但し右期間入院したことは当事者間に争いがない)治療を受け、同年六月一六日から同年九月九日まで同病院で通院治療を受けた。

2(一)  前記甲第一〇号証の三、乙第二号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故前、腰痛症、心房細動等で通院治療を受けており、下肢の痛みも訴えていたこと、本件事故前から眼振等の症状があつたこと、本件事故後の昭和六〇年九月一〇日ころ原告は原告の妻の弟により暴力を受け、左側胸部挫傷、頭部挫傷、全身打撲、肋骨骨折等の傷害を受け、同年九月一〇日に協立病院に入院して治療を受け、同月二五日退院し、その後も同病院において通院治療を受けたことが認められる。

(二)  前掲各証拠及び前記認定事実によれば、昭和六〇年九月一〇日から同年九月二五日までの治療のうち本件事故と相当因果関係ある治療は七日間(但し本件事故による傷害治療のためには右期間中の入院の必要性はないと認められる)と認められ、同年九月二六日以降の協立病院における通院治療のうち本件事故と相当因果関係があるのは同年九月二六日から同年一〇月一九日ころまで(実通院一五日)の通院治療の四三パーセントと認められる。

(三)  なお、以上認定の事実を総合すると、昭和六〇年一〇月二〇日以降に原告の受けた治療については、本件事故との相当因果関係の存在を認めるのは困難であり、他にこれを認めるに足る証拠はない。

四  原告の受けた損害

1  入院雑費 金一万二〇〇〇円

原告は、前記三のとおり、入院治療を受けたが、そのうち本件事故と相当因果関係がある入院期間は昭和六〇年六月四日から同月一五日までの一二日間と認められ、一日当りの入院雑費は一〇〇〇円と認めるのが相当である。

1000×12=1万2000(円)

2  通院交通費 金三万八六三七円

原告は本件事故による傷害治療のため、前記のとおり、協立病院に通院したが、原告本人尋問の結果によれば一日当りの通院交通費(往復)は金一〇六〇円と認められ、本件事故と相当因果関係ある通院交通費は、前記三認定の原告の傷害及び治療経過によれば、昭和六〇年五月二四日から同年九月九日までの間においては実通院三〇日分と認められ、同年九月二六日から同年一〇月一九日ころまでの間においては実通院一五日の四三パーセントと認めるのが相当である。

1060×(30+15×0.43)=1060×(30+6.45)=3万8637(円)

3  休業損害 金八一万五九五一円

原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第一二号証によれば、原告は大正一三年二月四日生れ(本件事故当時六一歳)で、本件事故前は古物商(美術品類)をしており、本件事故以後休業したことが認められる。前記三2認定の原告の本件事故前の健康状態を併せ考慮すると、原告の本件事故前の年収は昭和六〇年度賃金センサス第一巻第一表産業計、企業規模計、学歴計の六〇歳ないし六四歳の男子平均賃金の八〇パーセントである約二六三万二八〇〇円と認めるのが相当である(原告本人の供述中右認定に反する部分は根拠薄弱であつて採用できない)。

(22万4800×12+59万3400)×0.8=329万1000×0.8=263万2800(円)

前記認定事実によれば、原告は本件事故により、昭和六〇年五月二〇日から同年六月一五日までの二七日間は全く働けず、同年六月一六日から同年九月九日までの八六日間は平均して労働能力の八〇パーセントを喪失したものと認められ、昭和六〇年九月一〇日以降については、前記のとおり、原告は別件暴行により受けた傷害も加わつて入院するに至り、その後通院して治療を受けたが、右入・通院による休業期間のうち本件事故と相当因果関係があるのは同年九月一〇日から同月二五日までの間においては七日間分、同年九月二六日から同年一〇月一九日ころまでの間(約二四日間)においては(その四三パーセントである)一〇・三二日間分と認められる。したがつて本件事故と相当因果関係ある原告の休業損害は次のとおりとなる。

263万2800×1/365×(27+86×0.8+7+10.32)=263万2800×1/365×(27+68.8+7+10.32)=263万2800×1/365×113.12≒81万5951(円)

4  入通院(傷害)慰藉料 金六五万円

前記認定の原告の本件事故により受けた傷害の内容・程度、入通院治療経過、その他諸般の事情を総合すると、原告の本件事故による入通院(傷害)慰藉料は金六五万円と認めるのが相当である。

5  以上1ないし4の各損害を合計すると金一五一万六五八八円となる。

1万2000+3万8637+81万5951+65万=151万6588(円)

6  右5認定の損害額につき前記認定の過失割合により過失相殺をすると金一二八万九〇九九円となる。

151万6588×(1-0.15)=128万9099(円)

7  抗弁2の事実(自賠責保険から金一一七万九〇〇〇円の支払)は当事者間に争いがない。

したがつて前記6認定の金額から右既払金を差し引くと金一一万〇〇九九円となる。

128万9099-117万9000=11万0099(円)

8  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告が、本件事故に基づく損害賠償請求訴訟のため弁護士に訴訟代理を委任し、相当の報酬を支払うことを約したことが認められる。

本件事案の難易、請求認容額、その他一切の事情(本件事故の翌日からその支払時までの間に生ずることのありうべき中間利息を不当に利得させないことを含む)を総合すると金一万一〇〇〇円が本件事故と相当因果関係ある弁護士費用と認められる。

9  右7と右8の各損害を合計すると、原告は被告に対し本件事故に基づく損害賠償として金一二万一〇九九円を請求できるものと認められる。

11万0099+1万1000=12万1099(円)

五  以上の次第で、原告の本訴請求は、被告に対し本件事故に基づく損害賠償金一二万一〇九九円及びこれに対する本件事故の翌日である昭和六〇年五月二一日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容すべきであり、その余の請求は理由がないからこれを棄却すべきである。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 神沢昌克)

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